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#30 飲食店の税金の仕組み

確定申告を終え一息ついているタイミングかと思いますが、飲食店の経営における消費税をはじめとする様々な税金の仕組みをしっかりと理解できていますか? 場合によっては納税が免除になるケースや、消費税の還付を受けられるケースなど、知っておかないと思わぬ損をしてしまう事も多々あります。今回はそうした仕組みや節税の方法、開業時に留意しておくべきポイントなどを解説していきます。

また2023年10月には「インボイス制度」が導入され、これまでの税金の仕組みが大きく改定されることとなります。記事末尾に「インボイス制度」に関する記事のリンクを貼っておきますので、ぜひそちらを参考に対策や準備を進めてください。

飲食店を経営する際にかかる税金とは?

個人経営か法人経営かによって飲食店経営にかかる税金の種類は変わってきます。ここではそれぞれにかかる税金をまとめていきます。

個人経営の飲食店

所得税

所得税は、個人の所得に対してかかる税金で、1年間の全ての所得から所得控除を差し引いた残りの課税所得に5~45%の税率を掛けて算出される税金です。

課税される所得金額税率控除額
1,000円 から 1,949,000円まで5%0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円 以上45%4,796,000円

個人住民税

住民税と略されて浸透しています。所得に住んでいる市区町村ごとに定められた税率を掛けて算出される税金です。

個人事業税

個人事業税は、都道府県に納める地方税で、事業で得た所得に、飲食業の場合は5%の税率を掛けて算出される税金です。

復興特別所得税

個人で所得税を納める方は、併せて復興特別所得税も納める義務があります。所得額ではなく所得税額に2.1%を掛けて算出される税金です。

法人経営の飲食店

法人税

法人税は、法人が事業活動を通じて得た各事業年度の所得に法人税率(15~23.2%)を掛けて算出される税金です。

地方法人税

地方法人税は、法人税額に10.3%を掛けて算出される税金です。

法人住民税

法人住民税は、都道府県、市区町村ごとに所得や資本金を基準に定められた税率を掛けて算出される税金です。

法人事業税

法人事業税は所得に対して都道府県によって定められた税率を掛けて算出される税金です。

代表者個人にかかる税金

これら以外にも代表者個人対しては所得税、個人住民税、復興特別所得税が課税されます。

どちらにも関係する税金

消費税

消費税は、売り上げで得た消費税から仕入れなどにかかった消費税を差し引いて算出される税金です。

固定資産税

固定資産税は、家屋、土地、償却資産を持っている場合は標準税率1.4%をかけて算出される税金です。

源泉所得税と特別徴収住民税

給与支払いがある場合は課税されます。

個人経営、法人経営、どちらを選ぶ?

個人経営と法人経営、どちらを選ぶかといった選択に重要なのはずばり、「納税額」です。個人事業主の所得税率は5%から始まり、所得の上昇に比例して最大45%まで上がります。事業が拡大し、所得がある程度まで増えた場合は法人税の税率の方が低くなり、飲食店経営には有利になります。しかし、法人化すると、社会保険の加入を義務付けられ、その保険料の一部を会社が負担する必要があったり、社長の収入はその法人から受け取る形になるため所得税や住民税がかかってきたりと、他の税金のことも考えなくてはなりません。全ての税金を加味して計算し、それでも法人化のメリットの方が大きいと考えられる場合にのみ法人化することをおすすめします。

開業から2年間は免除になる?消費税の課税が始まるタイミング

飲食店経営者は消費税課税事業者となり、消費税を納付する義務がある法人や個人事業主となりますが、個人・法人共に開業から2年間は消費税の納付が一部を除き免除されます。ここではどのタイミングで消費税の課税が始まるのか、また2年の免除を受けられない場合について解説していきます。

また2023年10月には「インボイス制度」が導入され、これまでの税金の仕組みが大きく改定されることとなります。記事末尾に「インボイス制度」に関する記事のリンクを貼っておきますので、ぜひそちらを参考に対策や準備を進めてください。

消費税の課税が発生するタイミング

基準期間(個人事業者の場合はその年の前々年、事業年度が1年である法人の場合はその事業年度の前々事業年度)の課税売上高(消費税を抜いた売上高)が1,000万円を超えた場合、消費税が課税されます。要約すると3年目以降、前々年度の売り上げが1000万円を超えていれば消費税を納付しなければなりません。法人経営の場合、この判定で一度課税事業者になるとそのまま課税が続きます。しかし個人経営の場合は、年度ごとに「前々年度の課税売上高が1000万円を超えているか」という判定が入り、もし越えなかった場合にはまた二年後に消費税の納付が免除されます。

開業から2年間の免除が受けられないケースも

法人経営で資本金が1000万円以上の場合は初年度から課税の対象となります。つまり、飲食店を法人として開業する場合、または個人経営から法人経営へと移行する場合、資本金を1000万円未満に押さえておけば、開業から2年間は消費税の課税を免除されることができます。節税ポイントですので気にすることをおすすめします。また個人経営の場合は、前年の1月1日から6月30日までの6カ月間。法人経営の場合は、事業開始の日から6カ月間として定められている「特定期間」内に課税売上高が1000万円を超え、給与支払いの総額が1000万円を超えた場合にも消費税の課税の免除が解除され、翌年から消費税が加算されるようになります。

課税事業者になった場合

課税事業者になれば、その課税期間の開始前に税務署へ「消費税課税事業者届出書」を提出する必要があります。課税事業者へは先述の判定によって自動的に切り替わりますが、この届出書を提出していないと後述する還付金が発生した場合に受けられなくなりますので、忘れず速やかに提出しましょう。

消費税の還付について

消費税は、売上で得た消費税よりも仕入れなどで支払った消費税の額の方が大きければ申告を行い、還付を受ける事が出来ます。以下では還付を受けるための条件や、どのような時に消費税の還付が起こりやすいのか解説していきます。

消費税の還付を受ける条件

消費税の還付を受けるために必要な条件は、課税事業者(「消費税課税事業者届出書」を提出している)であること、納付税額を原則課税方式で算出していること、の2点です。免税事業者や、簡易課税方式で納税額を算出している事業者は対象外となってしまいます。しかし、免税事業者でも、税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出することで課税事業者となって還付を受けることは可能です。

消費税の還付の具体例

今現在、軽減税率によって8%と10%、二つの消費税率が存在していますが、これによって消費税の還付が受けられる場合があります。例えば売り上げで受け取る消費税が8%の軽減税率の物が多く、仕入れや設備投資で支払った消費税が10%の通常税率の物が多かった以下のような場合。「売り上げ(消費税8%)1000万円(消費税80万円)」「仕入れ(消費税10%)500万円(消費税40万円)設備投資(消費税10%)2000万円(消費税200万円)」売り上げで得た消費税は80万円、反対に支払った消費税は240万円になります。還付金は課税対象の売上で受け取った消費税額から、仕入れや経費で支払った消費税額を差し引いた額で計算するので80万円-240万円=還付金160万円を受け取れる計算になります。

消費税の還付が起こりやすいケース

上記に示したような消費税の還付が起こりやすいケースとしては以下の3点があげられます

赤字の場合

課税売上が減少し、売り上げよりも経費額が上回った、いわゆる赤字の場合は消費税の還付を受けられる可能性があります。しかし、給与や減価償却費などの課税されない支出が多く、支払った消費税の額が少ないまま赤字になっている場合は、消費税の還付が受けられないこともあるので注意しましょう。

高額な設備投資や仕入れを行った場合

事業をスタートさせたり、方針を転換させたり、劣化した機材を新調したりなど、飲食店経営には高額な設備投資をする機会は多々あります。また、経営戦略によっては普段使わないような高額な仕入れを行う事もあるでしょう。そうした購入を行った結果、売り上げで受け取る消費税よりも支払った消費税が多くなる場合があります。このような場合も当然消費税の還付を受ける事が出来ます。ちなみに物品や設備を分割払いで購入した場合は、引き渡しを受けた日が課税仕入れ日となるためその日にちの属する年度の支払い消費税に全額計上されます。

輸出業が関係する場合

消費税の課税は国内での取引に限られるため国外での取引には課税されません。飲食店ではあまりないかもしれませんが売り上げが国外で発生し、仕入れは国内でやっているという業態の場合、支払い部分にだけ消費税が発生しているので還付金を受け取れる可能性が高くなります。

消費税の納付額計算の種類と方法

上述の通り基本的には3年目以降、前々年度の売り上げが1000万円を超えた場合、消費税を納付しなければなりません。ここではその納付額の計算方法を解説していきます。まず、消費税の計算方法には原則課税方式と簡易課税方式の2種類があります。

原則課税方式

原則課税方式の計算方法は消費税の還付の項目でも示した通り売り上げなどで受け取った消費税から仕入れなどで支払った消費税を差し引くだけです。受け取った消費税が300万円で支払った消費税が120万円の場合差し引いた180万円を消費税として納付することになります。消費税の還付を受けたいのであればこの方式で消費税を算出していなければならず、また軽減税率8%の物と標準税率10%の物を分けて計上しなければなりません。

簡易課税方式

簡易課税方式の場合はみなし仕入れ率を使用します。これは事業によってパーセンテージが異なりますが飲食店の場合は60%がみなし仕入れ率となります。このみなし仕入れ率を使って消費税の納付額を出す計算式は「売り上げなどで受け取った消費税×(100-みなし仕入れ率)」になります。上記と同じく受け取った消費税が300万円の時は、「300万円×(100-60)%=120万円」となり、120万円を消費税として納付しなければなりません。

軽減税率の仕組みや適応されるケースとは?

消費税還付の項目でも少し触れた軽減税率について、2022年現在消費税には2種類の税率が存在します。標準税率の10%と軽減税率の8%です。2019年10月の消費税率の引き上げによって標準税率が10%に引き上げられましたが、食料品など生活必需品とみなされる一部物品に限り、軽減税率の8%に据え置かれています。食料品と言っても飲食店の店内で提供される料理などは軽減税率の範囲外とされ、税率は10%のままです。ケータリングや出張料理といったものもそこに含まれます。軽減税率の8%が適応されるのは初めから持ち帰りとして購入するテイクアウト、出前、仕出し、宅配、移動販売などです。コロナ禍の昨今、テイクアウトや宅配のサービスを始めた飲食店経営者も多い事でしょう。その場合は標準税率10%と軽減税率8%が混在することになるので領収書の書き方や消費税の納付の仕方など様々な注意が必要です。

飲食店を開業するときにやっておいたほうが良い事とは?

では、こういった税金の事を考えた上で飲食店を開業する場合、どんなことに気を付けなければならないでしょうか。一つの答えは、確定申告を青色申告にすることと、初期費用を細分化することです。

確定申告を青色申告にする

個人事業主が確定申告をする際、事前に税務署に届出を出した上で正しく記帳を行えば「青色申告」を行う事が出来ます。それ以外の申告は白色申告となります。同じような制度は法人にもあり、様々なメリットが期待できます。

個人経営の場合のメリット

青色申告特別控除

青色申告では、最大で65万円を所得から差し引くことができます。白色申告の場合は10万円しか控除が受けられません。

損失の繰り越し

純損失を3年間の繰り越すことができます。これは赤字が出た場合、翌年以降の黒字分と相殺する事が出来るという制度です。特に飲食店は設備投資などで開業初年度に赤字が出やすい業態なので、活用しやすいと言えるでしょう。

青色申告専従者

個人経営の場合は配偶者など同居の親族に仕事を手伝ってもらい給与を支払っている場合も多いでしょう。青色申告では条件付きでそれを全額経費として計上できます。白色申告の場合も経費として計上できますが金額に上限があります。

少額減価償却資産の特例

中小企業者等は、30万円未満の減価償却資産を、300万円を限度として、全額を損金算入する(経費として扱う)制度です。2年ごとに適用期限が延長されていますが、令和2年の税制改正においても、適用期限が2年間延長されました。

少額減価償却資産の特例

中小企業者等は、30万円未満の減価償却資産を、300万円を限度として、全額を損金算入する(経費として扱う)制度です。2年ごとに適用期限が延長されていますが、令和2年の税制改正においても、適用期限が2年間延長されました。

法人経営の場合のメリット

損失の繰り越し

損失金(赤字)を10年間繰り越して黒字分の所得と相殺する事が出来ます。

損失の繰戻しによる法人税額の還付

上記の繰り越しとは逆に、黒字で法人税を支払った年の翌年に赤字となった場合、その赤字を前期に繰り戻して法人税の還付を受ける事ができる制度です。ただし、繰り戻しできる期間は前年度の1年間のみなので注意が必要です。

少額減価償却資産の特例

中小企業者等は、30万円未満の減価償却資産を、300万円を限度として、全額を損金算入する(経費として扱う)制度です。2年ごとに適用期限が延長されていますが、令和2年の税制改正においても、適用期限が2年間延長されました。

初期費用の細分化について

飲食店における厨房機器、テーブル、電気、水道設備などの事業を行っていくうえで必要な固定資産の事を「減価償却資産」と呼びます。これらは定められた耐用年数に応じて毎年、費用として計上していく必要があり(これを減価償却と呼びます)、原則、購入した初年度にまとめて経費として落とすことができません。しかし、その中でも10万円未満の物品については消耗品費として一括で経費として計上する事が出来ます。さらに、青色確定申告のメリットの項目でも紹介した通り、中小企業と個人事業主は「少額減価償却資産の特例」を使う事ができ、更に多くの減価償却資産を初年度に経費として計上する事が出来るでしょう。そして内装工事などを行った際に「工事一式○○万円」とするのではなく「冷蔵庫」「壁紙」「キッチン台」などと項目を細分化することによって「少額減価償却資産の特例」の枠内に収まり、初年度に多くの設備を経費として計上できるでしょう。ただし、それがベストの選択かどうかは場合によって異なるため、迷った場合は飲食店経営に詳しい税理士などに相談することをお勧めします。

まとめ

いかがだったでしょうか。飲食店経営には様々税金がついてまわります。それらに対する正しい理解をしていないと、税制上不利な選択や単純に損をする場面が出てくるかもしれません。特に消費税周りは受け取る還付金の計算や、軽減税率などによって煩雑になっているのが現状です。税金に対する正しい知識を身に着け、青色申告ができる様、備えておくのをおすすめします。
また冒頭で記したように、2023年10月から「インボイス制度」が導入され、ここまで述べてきたような税金の仕組みが大きく改定されることとなります。これまで売上1,000万円以下で免税となっていた業者であっても「インボイス制度」によって納税の義務が発生するなど、飲食店への影響は大きいものです。以下、「最近話題のインボイス制度とは?その影響や対策を解説」記事のリンクを貼っておきますので、ぜひそちらを参考に対策や準備を進めてください。

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