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#34相次ぐ「コロナ閉店」飲食店の自己破産手続きについての解説

昨今、コロナウイルスの影響で経営不振が続いている飲食店も多いと思われます。その結果、止むを得ず閉店や自己破産をしなければならない状況にある人もいるはず、しかし、知識がないままに破産手続きをすると多額の借金が残ってしまったりする場合も…。そうならないためにもしっかりと手続きの流れやプロに相談するポイントなどを今回は解説していきたいと思います。

飲食店倒産の現状は

株式会社東京商工リサーチの調査によると、コロナの流行が始まった2020年の飲食業の倒産は、842件発生しており、これは過去最多を記録しています。ここでいう飲食業とは「食堂,レストラン」「専門料理店」「そば・うどん店」「すし店」「酒場,ビヤホール」「バー, キャバレー,ナイトクラブ」「喫茶店」「その他の飲食店」「持ち帰り飲食サービス業」「宅配飲食サービス業」を対象に調査がなされています。

参考

「株式会社東京商工リサーチ」2020年飲食業倒産、年間最多の842件発生

https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20210107_01.html

業種別の倒産状況

株式会社東京商工リサーチの調査を参考にすると、業種別では、「専門料理店」が201件で最多で、「食堂,レストラン」194件、「酒場,ビヤホール(居酒屋)」174件が後に続く形となっています。コロナ禍での在宅勤務や、リモートワークによる外食需要の減少や、感染リスクを避けたいという心理が顧客に働いたため、会食や接待の需要が減少し、幅広い業態や価格帯の飲食店が影響を受けていることが浮き彫りになったと言えるでしょう。また特に注目すべきは、コロナ禍で自治体から休業や時短営業の要請が直撃した「酒場,ビヤホール(居酒屋)」です。倒産件数は174件で、2012年の141件を大きく上回り、過去最多の倒産件数を記録しています。

倒産の原因

引き続き株式会社東京商工リサーチの調査を参考にすると倒産の原因として最も多いものが「販売不振」の717件で全体の8割を超えました。元々、飲食店というのは参入の容易さに比べ、顧客の争奪が激しく、安定した売り上げを確保することが難しい業種となっています。しかし、今回の調査では『不況型倒産』(不況時に見られる特定の倒産原因の合算)が753件で全体の倒産数の9割を占めています。なので昨今の飲食店の倒産を招いている原因は業種の問題というより、各自治体の時短要請に加え、書き入れ時の忘新年会、各種歓迎会などの自粛による売り上げ消失など、やはり新型コロナウイルス蔓延によるものが主だと言えるでしょう。

飲食店が閉店を考えるタイミング

では、現実に飲食店として閉店を考えるタイミングはいつなのでしょうか。それは資金繰りが厳しくなってきた時です。飲食店業界は現金商売であることが多いです。代金をその場でお客様からいただき、それをそのまま仕入れ代や家賃などの支払いに回す事ができるので資金繰りが比較的容易だという特徴があります。その反対に現金商売ではない「掛け売り」や「与信取引」を行っている経営者は手元に支払いに回すお金が入ってくるまでのギャップがあります。なのでそのような経営者は手元にお金ができるまでの資金繰りに運転資金を融資してもらう事があり、それは健全な経営状態であると言えます。しかし現金商売である飲食店が資金繰りに苦しみ、運転資金を融資してもらおうという状況はとても健全とは言えず、手元の資金が底をついていること以外の何物でもありません。もうすでに経営が苦しい中、融資を受けて一時しのぎをしてもさらに返済額が増えるだけでどうにもならない場合が多いでしょう。融資を業種転換や商品の一新などという現実的に勝算のある打開策に使えない場合には運転資金を融資してもらうことはお勧めできません。その前段階の資金繰りが厳しくなってきたという時点で、飲食店としては赤信号だと考え、閉店も視野に入れた今後の経営方針を考える必要があるでしょう。

法人経営の飲食店の破産手続きの流れ

上記のような原因で閉店を決めた飲食店が行わなければならない破産手続きについて解説していきます。まずは法人経営の場合から、以下のようなステップを踏みましょう。

STEP1 弁護士に相談
STEP2 弁護士に破産手続きの依頼
STEP3 書類作成・残務整理・従業員の解雇
STEP4 裁判所への破産申立て
STEP5 破産手続き開始決定・破産管財人選任
STEP6 破産管財人との面談
STEP7 債権者集会開催
STEP8 債権者への配当

STEP1 弁護士に相談

まずは正式な依頼をする前に法律相談事務所に相談しましょう。ポイントは飲食に限らず企業事業破産の実績がある事務所を選ぶことです。実績や経験がある事務所を選べば、実績のない事務所より早く、的確に話を進めてもらえることでしょう。相談の内容としては破産手続きの流れや破産以外での事業再生方法の模索など詳細な説明を受ける事ができます。初回無料の法律事務所も多いですし、有料の場合でも30分5000円程度で相談を受ける事ができます。

STEP2 弁護士に破産手続きの依頼

STEP1の相談において、破産にかかる費用や時間、さらには具体的な流れについて納得ができましたら、正式に依頼をし、契約を締結しましょう。正式な契約の後、弁護士と委任契約書を交わし、委任状を弁護士宛てに送付します。委任状を受け取った弁護士は債権者に受任通知を発送する事ができます。受任通知とは、各債権者に対して近くこの店が破産の申立てを行う旨を連絡し、同時に債権額の開示を求める通知のことです。この受任通知が債権者に発送されると、今後債権者は破産を行う経営者(債務者)に対して直接取り立てができなくなり、以降全て債権者からの連絡は、窓口となる代理人弁護士が担当します。受任通知の発送により、債権者や金融機関の取り立てなどから解放され、精神的な負担が軽くなる飲食店経営者の方もいる事でしょう。

STEP3 書類作成・残務整理・従業員の解雇

破産申立てに必要な申立書や添付書類等、必要な書類を用意しましょう。しかし、破産手続きに必要な書類のほぼ全ては代理人弁護士が作成するので、心配する必要はありません。それと並行して会社の残務整理や従業員の解雇を行いましょう。従業員の解雇はやはり人と人との関係性の話になるので代理人弁護士と協議を重ね、慎重に進める事をお勧めします。また、従業員への賃金の未払いがある場合は後に選任する破産管財人へ申告して対応することになります。

STEP4 裁判所への破産申立て

上記の用意をすべて完了した後、地方裁判所へ行き、破産の申し立てと、その手続き費用の予納金を納めます。ちなみに、地方裁判所へは破産申し立ての本人が行く必要はありません。代理人弁護士に手続きの全てを委任することもできます。

STEP5 破産手続き開始決定・破産管財人選任

地方裁判所が破産手続きの開始決定を下すと、裁判所により破産管財人が選任されます。破産管財人とは会社と全く関係のない第三者の弁護士が任命されます。破産者と債権者のいずれからも中立な第三者として破産者の財産の調査や管理、換価処分などを行い、債権者に弁済や配当を行う事が業務です。破産管財人が任命された時点で破産者の財産の処分権は破産管財人に移ります。それと同時に債権者も差し押さえや強制執行ができない状態になります。破産者がすることは破産手続き開始決定通知を受け、自らの債権の金額を債権届出書に記載し、地方裁判所に提出することです。

STEP6 破産管財人との面談

破産者は自らの代理人弁護士と共に破産管財人の三社で面談をして、資産や負債額など会社の状況を説明し、今後の方針についての打ち合わせを行います。破産管財人は会社の資産を処分、売却し現金化します。また、これ以降にも破産管財人から追加の調査事項の回答を求められた場合、これに協力しなければなりません。

STEP7 債権者集会開催

通常の場合、破産手続きの開始決定から約3ヶ月後に地方裁判所で第1回債権者集会が開催されます。この集会は、裁判官や破産管財人、代理人弁護士、破産者、債権者などが出席します。内容は破産管財人が裁判所や債権者に対し会社の資産・負債状況や配当の見込み等報告するのが主です。債権者集会は1回で終了する場合が比較的多いものの、2回目以降が開催されることもあります。

STEP8 債権者への配当

破産管財人は、会社の資産を売却、処分して捻出した資金から、税金などの未払い賃金を支払います。それでも現金が余った場合のみ、一般の債権者が配当を受け取れます。なお、余らなかった場合は配当は行われず、一般の債権者は無配当で終わることも多いといえるでしょう。そして、無事、配当手続きまでが完了すると、破産手続きは完了となります。

個人経営の飲食店の破産手続きの流れ

次に個人経営の飲食店の場合の破産手続きの流れについて解説していきます。以下のステップを踏んで破産手続きは成されます。

STEP1 弁護士に相談
STEP2 弁護士に破産手続きの依頼
STEP3 書類作成
STEP4 残務整理・従業員の解雇
STEP5 地方裁判所への破産申立て
STEP6 裁判官との面接
STEP7 破産(管財)手続きの開始の決定
STEP8 債権者集会
STEP9 免責の確定

STEP1 弁護士に相談

やはり個人経営の飲食店であっても法律事務所に相談することをお勧めします。選ぶポイントは法人破産の場合と変わらず企業事業破産の実績がある事務所を選ぶことです。

STEP2 弁護士に破産手続きの依頼

STEP1の相談において、破産にかかる費用や時間、さらには具体的な流れについて納得ができましたら、正式に依頼をし、契約を締結しましょう。正式な契約の後の流れは法人破産の場合と同じです。弁護士と委任契約書を交わし、弁護士が債権者へ受任通知を発送します。受任通知の発送によって債権者は取り立てができなくなり、債権者とのやり取りは以降代理人弁護士を窓口として行う事になり、債権者の精神的な負担は軽くなるでしょう。

STEP3 書類作成

破産申立てに必要な申立書や添付書類等、必要な書類を用意しましょう。法人破産の時と同様に破産手続きで裁判所に提出する書類のほぼ全ては代理人弁護士が作成しますが、個人経営の破産の場合には、破産者が用意しなければならない書類も出てくるかもしれません。代理人弁護士と協力して書類の作成に努めましょう。以下は個人経営の飲食店の破産に必要な書類の一例です。是非参考になさってください。

個人経営の飲食店に必要な書類

・破産手続き開始及び免責申立書・陳述書・債権者一覧表・資産目録・家計の状況・住民票・戸籍謄本・給与明細書(写し)・源泉徴収票(写し)・賃貸借契約書(写し)・預金通帳(写し)・不動産登記簿謄本・退職金を証明する書面・検証(写し)・自動車の査定書・保険証券の写し・年金等受給証明書(写し)・保険解約返戻金証明書

STEP4 残務整理・従業員の解雇

書類作成と並行して残務整理や従業員の解雇を行いましょう。従業員の解雇については代理人弁護士のアドバイスのもと、慎重に行う事をお勧めします。また、未払い賃金があった場合、法人破産の場合と同じく、後に選任される破産管財人へ申告して対応することになります。

STEP5 地方裁判所への破産申立て

地方裁判所へ行き、破産手続きの申立てを行い、その手続き費用の予納金を収めます。ちなみに、破産申し立ての本人が行く必要はありません。代理人弁護士に手続きの全てを委任することもできます。

STEP6 裁判官との面接

破産手続き申立てから約1ヶ月後、裁判所にて裁判官との面接が行われます。内容としてはどうして破産申立人が自己破産に至ったのかという事情について聞かれます。構えてしまう人がいるかもしれませんが、代理人弁護士が代わりに受け答えしたり、サポートしてくれますのであまり不安に思う必要はありません。裁判官との面接時には申立書のコピー、印鑑、筆記用具、身分証明書を忘れずに持参しましょう。また、裁判官からの質問は以下のような例があります。

  • 債務超過による支払い不能に陥った理由
  • 債権者数や借金の総額
  • 債権者一覧以外からの借り入れの有無

参考にして心を落ち着けて面接に臨んでください。

STEP7 破産(管財)手続きの開始の決定

上記の面接が滞りなく進めば面接から約一週間以内に破産手続きの開始決定がなされます。しかし、飲食店の破産は個人事業主の破産事案なので単なる自己破産の時のような「同時廃止手続き」をとることはできずに「管財事件」として取り扱われます。「管財事件」とは、裁判所によって破産管財人が選任され、その破産管財人が破産者の財産を調査、処分、売却し、配当できる財産があればこれを各債権者に分配する破産手続きのことです。注意しなければならない点は法人破産の場合とは異なり、事業とは関係ない自宅不動産や車、店舗自体や店内にある価値が付きそうな物なども換価処分の対象になってしまう場合があるという点です。破産開始決定から滞りなく進めば約2ヶ月後に免責手続きの開始が行われます。予納金を納めて管財人が選任された後、管財人と面接となりますが、この内容は法人破産の場合と変わりはありません。その後およそ3ヶ月以内を目安に債権者集会が行われます。

STEP8 債権者集会

債権者集会とは、債権者に対して、破産管財人による破産者の財産状況の報告や破産に至った理由を説明し、債権者からの意見の聞く場になります。1度で終了する場合が比較的多いですが、複数回行われることもあります。

STEP9 免責の確定

裁判官との面接から約1週間以内に裁判所から免責許可決定が出され、ここで借金の返済義務から解放されます。また、このタイミングで破産者の住所や氏名が官報に掲載されます。さらに、債権者集会を経て、債権者が異議を述べない限り、免責許可決定から約1ヶ月後に免責許可決定が確定しますので、これで正式に借金を返済する必要がなくなり、破産手続きの完了となります。

借金を残さない閉店を目指すには

ここまでは破産の手続きの流れを見てきましたが同じ破産をするにしろ、多額の借金を抱えての破産はぜひとも避けたいとお思いの事だと思います。ここではそんな借金を残さない閉店を目指すにはどうすればいいかという事を解説していきます。

閉店はまだ体力が残っているうちに

飲食店の閉店には以外にもたくさんのコストがかかります。賃貸物件を借りている場合には、物件の原状回復工事に多大なコストがかかるでしょう。どの状態まで戻すのかという契約にもよりますが、坪当たり数万円かかると考えた方がよさそうです。物件の立地や、内装状態によってもさらに費用はかさみます。また、賃貸契約を解除する際は解除予告期間の光熱費や家賃などを負担する必要も出てきます。閉店作業を済ませる事ができるくらいのお店の体力、資金力が残っているうちに閉店を決断することが借金を残さない閉店を目指すうえでは大事になってくるでしょう。

小規模個人再生

とはいっても既に多額の借金を背負っている状態で閉店を決める方も多い事でしょう。そのような場合には債務整理を検討しましょう。債務整理の方法として以下を紹介しますが、いずれにしても債務整理に強い弁護士に相談することを強くお勧めします。

債務整理

小規模の個人事業主対象とした個人再生の制度です。利用するためには債務額が5000万円を超えないことが条件として設定されています。借金を大幅に減額してもらう事ができ、3〜5年の長期分割で返済ができます。自己破産とは異なるため住宅ローンが残っている自宅は処分せずに利用できます。

任意整理

債権者と交渉して返済が可能になるところまで借金を圧縮する方法です。しかし、利息がカットされるだけといった結果に落ち着くことも多く、多額の借金を減らす方法としては不向きです。メリットは保証人に迷惑をかけないようにしてくれ等の融通が利きやすいといった点や、裁判所を通さないため、出廷する必要がない点などです。ただし、任意整理を成功させるためには、得意としている弁護士に依頼することが重要になってくるため、その依頼料といった費用がまたかかるというデメリットがあることも念頭に置いておく必要があるでしょう。

特定調停

任意整理とは違い、債権者との間に裁判所に介入してもらい、返済額を調整してもらうやり方です。全て自分でやれば費用が比較的安価ですむと言われていますが、望む形での決着を求めるのであれば弁護士に依頼したほうがより確実です。当然そのための費用もかかります

自己破産

借金の金額にかかわらず、ゼロにできる方法です。しかし、保証人や連帯保証人には返済の義務は残ります。また、申請時に20万円以上の売掛金があると管財事件扱いとなり、手続きが長引いてしまう可能性があります。また、自己破産を行う場合にはその手続きにかかる費用、印紙代や予納金、弁護士や司法書士への依頼料などが必要な事をしっかりと認識しておかなければなりません。

まとめ

いかがだったでしょうか。2020年に過去最多となった飲食店の倒産はやはり昨今世間を騒がせている新型コロナウイルスと、その為に行われた時短政策などの影響が色濃く出ており、飲食店にとっては厳しい時代だと言わざるを得ないかもしれません。そんな時代であるからこそ、選択肢の一つとして、閉店を考えるタイミングや破産の仕組みを知っておいて損はないと思います。そしてもし仮に閉店するとしても、借金を残さない閉店をする術を知っておくことでその後の再起も図りやすくなるのではないでしょうか。

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